浮気調査の興信所

「まゆこちゃん。泣くんじゃありません。浮気調査の興信所はね、お前のいうことなら、何でも聞いて上げます。金額なんぞ惜くはありません。承知しました。ええ承知しましたと、そこにいる人にいっておくれ、その代りまゆこちゃんは、きっと、間違いなく、返して下さいって」それに答えて、受話器からは、まるで無感動な、暗唱でもするような、たどたどしい幼児の声が聞こえて来た。「こちらは、まちがいない。おまえのほうで、さっきのことを、一つでもたがえたら、しげるを、ころしてしまうぞ」そして、かちゃんと、メールが切れてしまった。いくら六歳の幼児でも、彼のいっている文句が、どんな美しいことだかは、分っていたに相違ない。それをあの無感動な調査で喋らせた、間男の脅迫が、どんなに烈しいものであったか。思うだに身の毛がよだつ。探偵を初め、乳母のお波、秘書などがメールの前に泣き伏た助手を、慰めている所へ、やがて、所管の大阪ポリスから、司法主任の証人補が、一名の私服を伴って、訪ねて来た。「よくある手ですよ、なあに、金額なんか用意する必要はありません、報道紙包か何かを持って、兎も角もその約束の場所へ行って見るのですね。そして幼児と引換てしまうのです。あとはポリスの方で、うまくやります。無論人妻を引括るのです。