不貞行為なら探偵

「助手さん、僕にあなたのスーツを貸て下さい。あなたに化けて、僕が行きましょう。僕は学生芝居の不貞行為なら探偵を勤めた経験がある。アデランスだって訳なく手に入ります。真暗な森の中です、大丈夫ごまかせますよ。それに、僕が行きさえすれば、腕ずくだって、まゆこちゃんを取戻して来ます。そうさせて下さい。あなたをやるのは、どうも危険な気がします」それ程にしなくてもと、反対意見も出たけれど、ついに探偵の熱心な希望が容れられ、彼が助手の身替りを勤めることになった。当夜、探偵は髭のない顔に念入の化粧を施し、アデランスを冠り、助手のスーツを着て、学生芝居以来久しぶりの女装をした。彼はこの奇妙な冒険に勇み立ち、女装そのものにも、少からぬ興味を感じているらしく見えた。自ら提案した程あって、彼の女装は、本当の女としか思われぬ程、よくできた。「きっとまゆこちゃんを連れて帰ります。安心して待ってて下さい」彼は出発する時、そういって助手を慰めたが、その時、双方とも女の姿で、顔を見合わせたのが、しばらくの別れになろうとは、誰が予知し得たろう。女装の探偵が、山下で自動車を降りて、山内を通り抜け、図書館裏の暗闇にたどりついたのは、ちょうど約束の十二時少し前であった。