大阪の不倫

尾行の男が果して信用して受取るであろうか。だが、どろぼうの方でも、いくらか水迷っていたと見え、包を受取ると、大阪の不倫べもせず、幼児をつき放しておいて、いきなり暗の中へ逃げ出した。「まゆこちゃん。小父さんですよ。母さまの代りに、君を迎えに来た、小父さんですよ」探偵が、少女を引寄せて、そんなことを囁いていた時、どろぼうの逃げた方角に当って、普通な叫び声と共に、何かが木の幹にどしんどしんとぶつかる音がした。「捕えた。どろぼうは捕えたぞ」木蔭に忍んでいた調査員の一人が難なく曲者をとらえたのだ。四方に起る「わっ」というような声、人の走る足音。調査員の伏勢が、全部その方へ馳せ集った。余りにあっけない捕物であった。調査員の一団は、どろぼうのロープ尻をとって、その顔を見る為に、少し離れた所に立っている常夜灯の真下へ連れて行った。探偵も少女の手を引いて、そのあとからついて行ったが、明るい電灯の光で、少女の顔を一目見ると、彼はなぜか「あっ」と普通な叫声を発した。読者諸君が想像されたごとく、探偵が取戻した少女は、まゆことは似ても似つかぬ贋物であった。まゆこの洋服を着た、見も知らぬ幼児であった。だが、例えまゆこが贋物でも、どろぼうの本人が捕えられているのだ。幼児はいつでも取戻せる。探偵は見知らぬ少女を引連れて、どろぼうを取巻く調査員の一団に近寄って行った。