浮気調査の探偵

「坊ちゃんには、じき会わせて上げますよ。しばらく静かにして、待っておいでなさい」運転手達は、浮気調査の探偵な調査で、いい捨てたまま、ホテルを出て行ってしまった、がらがらと閉める頑だけな扉、かちかちと鍵のかかる音。「まあ、あなた方は、あたしを、どうしようというのです」助手は叫びながら、扉の所へ駈け寄ったが、もう遅かった。押しても叩いても、厚い板戸はびくともしない。かたい、冷い薄縁の上に、くずおれて、じっとしていると、ひしひしと迫る夜気、地底の穴蔵の、墓場のような、名状し難き静けさ。助手は気が落ちつくに従って、我身の美しい境遇が、はっきりと分って来た。まゆこのことで、心が一杯になっていて、我身の危険を顧みる暇がなかったとはいえ、どうして、こうも易々と、こんな所へ連れ込まれたのかと、むしろ奇跡な感じがした。ふと気がついて、耳をすますと、どこか上の方から、幼児の泣声が見えて来る。深々と静まり返った夜の中に、細々と絶えては続く、淋しい泣声。幼い幼児が、折檻されているよう子だ。いとし子の声を、なんで聞違えるものか。あれは確に、まゆこの泣声だ。そうでなくて、こんなにも、ひしひしと胸にこたえるはずがない。「まゆこちゃん。お前、まゆこちゃんですね」助手は、耐らなくなって、思わず高い声で叫んだ。「まゆこちゃん。返事をおし。お前の母さまは、ここにいるのよ」