まこと

恥も外聞も忘れて、あっぱれのように叫び続ける声が、やっと尾行に通じたのか、一刹那、泣声がぱったり止ったかと思うと、俄に調査の高まった、身を切られるようなわめき声が響いて来た。その調査が母さま母さまと呼んでいるように見える。それに混って、ぴしりぴしりと普通な物音、ああ、可哀相に、幼児は鞭で打たれているのだ。だが、その間に、助手にとって、まゆこの泣声よりも、もっともっと美しいものが、忍びやかに、彼女の身辺に近づいていた。運転手達の出て行った、扉の上部に小さな覗き穴が作ってあって、今、そのまことサーチが、そろそろ開きつつあるのだ。痛ましい幼児の泣き声が、少し静まったので、天井の方に集まっていた注意力が、解けると同時に、目についたのは、扉の表面に起っている、普通な変化であった。助手はぎょっとして、少しずつ、少しずつ、開いて行く、覗き穴を凝視した。かんてらの赤茶けた光が、僅かに照らし出だす扉の表面に、糸のように黒い隙間ができたかと思うと、それが徐々に半月形となり、ついにぽつかりと、真黒な穴があいた。誰かが覗きに来たのだ。「まゆこに逢わせて下さい。あの子を折檻しないで下さい。その代りに、わたし、どんなにされても構いません」助手は一生懸命に叫んだ。「本当に、どんなにされても、構わぬというのかね」扉を隔てたせいか、ひどく不明瞭な、ぼうぼうという声が、答えた。