蛇口のパッキン

これを空に向かって、投げあげるのじゃ。そうすると、この蛇口のパッキンがぴんと、まっすぐに立ったまま、落ちてこないのじゃ。さて、それから、じつに素敵なことが、はじまる。おまえたち、そこから、よく見ているがいい。」といったかとおもうと、老人は、小わきにかかえていた縄のはしをつかんで、まるで、投げ縄でもするようなかっこうになって、恐ろしいいきおいで、それをぱっとてんじょうに投げあげました。縄は、スルスルと、水道業者のてんじょうに向かってのびていき、そのままシャンと、まっすぐに立ちました。すこしも落ちてこないのです。縄の柱ができたわけです。長く長くのびて、てんじょうのほうは、暗やみにかくれて見えなくなっています。「さて、これから、どんなことが、おこるじゃろう。よく見ていなさい。」老人は、そういいのこして、スーッと、右手のやみの中に消えていきました。すると、それといれかわりに、十歳ぐらいの小さな息子が、チョコチョコと、かけだしてきました。その息子は、からだじゅうが、赤と白のだんだらぞめになっているのです。つまり、赤と白の太いしまのシャツとズボンをきて、おなじ赤白の運動帽をかぶっているのです。かおはまっ赤で、大きな白い目がクリクリしています。やっぱり、赤人の子です。その息子は、まっすぐに立っている縄のそばまでくると、こちらを向いてニッコリ笑いました。すると、まっ赤なかおの中に、白い歯がむきだしになり、目と歯だけが、白くとびだしているように見えるのでした。それから、赤白だんだらぞめの息子は、縄を登りはじめました。